第1話 ご奉仕戦隊出動!

 暖かな春の月の光が屋敷にふりそそぐ。穏やかな風。

 ここは、有栖川財閥のお屋敷の一室。そこで、男がひとりテーブルに向かって
雑務をこなしている。

 男の名は、有栖川義之(ありすがわよしゆき)。有栖川家の当主である。 

 日本有数の財閥である有栖川家は、当主の手腕により、繁栄していた。

 一息いれようと、有栖川は、手元の呼び鈴を鳴らし、メイドを呼んだ。



 すぐに、パタパタという小走りな足音とともに、1人の少女がやってくる。



「お呼びですか?ご主人様!」



 流れるような髪をポニーテールにさわやかにまとめ、メイド服に身を包んだ少女。

大きな瞳は深い真紅で、芯の強さを感じさせた。

彼女の名は赤大路千歳(あかおおじちとせ)。有栖川の屋敷でメイドとして働いている。



「ああ、千歳。悪いが、紅茶を入れてくれないか。」

「はい!わかりました。ダージリンでよろしかったですよね?」

「うん。頼む。……あ、ちょっと待て」

「なんでしょう?」



 すでにキッチンへと足を向けていた千歳が振り返る。



「頼むから、ぬるめにしてくれ。もうお前の入れてくれた茶で舌をやけどするのはごめんだ。」

「えー、紅茶は熱くないとおいしくないですよ?」

「お前のは熱すぎるんだ。お前の感覚で「ぬるい」くらいがちょうどいいんだ、わたしには。」

「はぁ、わかりました・・・。」



 なんでかな、熱いほうがおいしいのにな・・・。などとぶつぶつ言いながら、千歳はキッチンへ向かった。

その背中をみやりながら、有栖川はため息をついた。



 キッチンに向かう千歳に、もう一人のメイドが声をかける。

ショートカットが清潔感を感じさせる少女だ。

切れ長の目がクールな印象を与える。



「千歳、ご用はなんだったの?」

「あ、涼子。うん、紅茶入れに行くんだよ。」

「えっ!?」



 涼子と呼ばれた少女、青山涼子(あおやまりょうこ)は、大げさに驚いてみせた。



「またご主人様の舌をやけどさせるようなお茶、出すんじゃないの!?」

「へへ、ご主人様にも言われたよ。くれぐれもぬるめでってね。」

「うまい入れ方教えてあげようか?」

「あ、それ助かるな。じゃあ、キッチンまで来てよ。どうも、ぬるいって感覚、わかんないんだよね〜。」

「あきれた・・・。」



 二人が紅茶の入れ方を話しながら歩いていくと、いきなり前方にある休憩室から、



「いけぇー!!」



 と、ものすごい大きさの声が飛んできた。

常人なら、とびあがって驚きそうな突然の出来事にも、二人は平然としている。慣れているのだ。



「ああ、もうそんな季節なんだね。」

「そうね、毎年毎年、春先だけの行事みたいなものだけど。しばらくしたら静かになるわ。」



 休憩室の中では、テレビがついていた。

画面は野球中継。阪神タイガースの開幕戦だ。

その画面をくいいるように見入る金髪の少女が1人。

時折、「いてまえー!」だの、「なにしとんねん!!」だの、叫び声が響く。

彼女の名は、イエロー・タイガーフィールド。彼女も有栖川家のメイドの1人である。

すこし骨太で大柄な体格が、彼女が日本人でないことを物語っている。

金髪が美しくなびいている。イギリスの生まれで、だまって座っていればさぞ高貴な人に見られたであろう、彼女の口からは、



「たのむでぇ、ほんまに!!ここやで、ここ!!」」



 なぜか、流暢な関西弁が大音量で吐き出されている。



「よくあれだけ夢中になれるものね。」

「熱くなれるのはうらやましいけどな。」

 

千歳と涼子は「あーっ、もうなんでやねん!!」という諦めの叫びを聞きながら、やけに熱量の高い休憩室を通り過ぎた。



 ほどなくキッチンが見えてきた。カチャカチャという食器同士がこすれあう音が聞こえる。



「夕飯の洗い物まだやってるみたい。」

「そうね。」

「手伝ってあげようか?」

「紅茶をお届けした後でね。」



 すると突然、



「いやああ!!ゴキ!!ゴキ!!ゴキブリぃ〜!!」



 金切り声が聞こえてきた。

キッチンの中では、2人のメイドが1匹のゴキブリを相手に大乱闘している。

1人はスリッパでゴキブリを追いかけ、もう1人はできるだけゴキブリから距離をとりたい一心で、手につくものを投げつける。

何枚かの食器の割れる音が聞こえた。



 積極的にゴキブリを追い回している少女はまだ幼い。ツインテールが頭の両脇でかわいく揺れている。

この幼いメイドは桃園愛(ももぞのあい)。



「えいっ!えいっ!このっ!」



手にしたスリッパは何度も空を切り、パン、パンという乾いた音がむなしく響く。



キッチンの隅で震えながらパニックしているメイドはメガネをかけて、三つ編みを両肩に下げている。

普段なら、理性あふれる顔立ちをしているのだろうが、黒い悪魔の前ではただそこらじゅうにあるものを

手当たり次第に投げることしかできない。



「愛ちゃん!!お願いですわ〜!!早くなんとかして〜!!」



と叫ぶメガネをかけたメイドは緑川萌枝(みどりかわもえ)。



「ふにゅう、そんなこといっても・・・!」



千歳と涼子がキッチンに駆け込んだ時に、やっと黒い物体は愛のスリッパに、パチンっとつぶされたのだった。



「手ごわい相手でしたわね・・・。」

「ふにゅ?萌枝ちゃん、ただ食器投げて割ってただけじゃん…。」

「ぎく。そ、それは言わない約束ですわ。」



落ち着いてみると、10数枚の食器が割れて散乱し、なんだかえらいことになってしまっている。

涼子が口を開く。



「紅茶、入れるから場所借りるわね。」



「……涼子ってば、クール…。」

と千歳。



 千歳と涼子が紅茶を入れている横で、半泣きになりながら愛と萌枝はキッチンをかたすのだった。



「ふにゅ、またお給金引かれちゃうね、萌枝ちゃん。」

「ああ、言わないで、ですわ…。」

「ごめんね、愛、千歳。紅茶お届けしたら手伝うからね。」

「まったく、虫ごときに。情けないんだから。」



 ほどなく、紅茶が有栖川のもとに届けられた。



「うん。うまいじゃないか。」

「えへ。ありがとうございます!涼子に手伝ってもらったんですよ。」

「ああ、なるほど…。」

「ええと、それで、ご主人様…。」

「?なんだ?」

「ちょーっとキッチンでゴキブリ君が出ちゃったようでして…。」



その一言で事情を飲み込んだ有栖川は、ふうっと大きなため息をついた。



「またか?」

「え、ええ。それで、ちょーっと大惨事っ、みたいなことになっちゃってるんですけど…。」

「萌枝のゴキブリ嫌い、なんとかならないのか?」

「なんとかなったらいいなーっ、なんて…はは、ははは…。」



 その時である。野球中継を観戦していたイエローが、けたたましく駆け込んできたのだ。



「ご、ご主人様、大変や!」

「なんだ?サヨナラ負けでもしたのか?」

「ちゃうねん!なんか、テレビでえらいこと言うとるんや!」

「えらいこと?」

「なんか、ビザールとか帝国なんとかいう奴らが出てきてんねん…!!世界征服とか言うてて、おかしいで!」



ビザールという言葉に有栖川の目が光ったのを千歳は見た。



「なんかのバラエティ番組じゃないの?」

千歳が答えるが、有栖川は何故かこわばっている。



「ビザール帝国…。来たのか、ついに。」

「ご主人様?」

「とにかく、そいつらの放送を見よう。涼子と愛と萌枝も呼んでくれ。すぐにだ。」





テレビの画面には、「ビザールクイーン」となのる女性が写っている。

5人のメイドたちと有栖川は、そろってテレビの前にいた。

ビザールクイーンは、いわゆるボンテージファッションを身に付け、扇情的だ。

肉感的な体が締め付けられ、においたつような色気を放っている。が、どこか毒々しい。

よく通る声で、クイーンは朗々とうたう。

「われわれ、ビザール帝国は今ここに世界征服を宣言をするものである!!おとなしく軍門に下れば、命だけは助けてやる!」



クイーンの演説は続く。

ビザール帝国をなのる秘密結社が、世界征服にのりだしたということ。

すでにいくつかの国はビザール帝国によって征服されているということ。

次の攻撃目標は、日本だということ。

降伏すれば、ビザール帝国の奴隷として扱うということ。



そして、画面の女は、



「有栖川義之!!この放送を見ているだろう!!」



と叫んだ。



「えっ?」

「ご主人様!?」



5人のメイドたちはその言葉に反応して一斉に有栖川に視線を送る。



「有栖川!聞いてのとおりだ!ビザール帝国の軍資金調達の役目は終わった!!至急に帰還せよ!!」







放送は切れた。画面は黒いまま何も写さない。沈黙が休憩室を包んでいた。

重い雰囲気を断ち切るように、千歳が口を開いた。



「ご主人様…?今のは、いったい…?」

「聞いての通りだよ。有栖川財閥は、ビザール帝国の軍資金調達のための組織だ。」



有栖川が淡々と説明する。



「先代から聞いていたよ。有栖川はビザール帝国のための組織。その決起にあわせてビザール帝国に帰還するように、と。」

「そ、それでご主人様はどうなさるんですの…?」

萌枝が問い掛ける。



5人のメイドたちは動転していた。



「まさか、ほんまにビザール帝国にゼニ持っていきはるん?」

いつもは笑いを誘うイエローの関西弁も、どこかよそよそしい。



「安心しろ。わたしはビザール帝国には帰らないよ。」

「本当ですか?」

涼子の問いに答える有栖川。



「先代はどうだったか知らないが、わたしはそんなわけのわからない組織に飼いならされるのはごめんだよ。」

「さすがわたしたちのご主人様!!そうこなくっちゃ!!」

千歳の元気な声に、ふわっと雰囲気が和らいだ。そういった天性の素質を彼女は持っていた。



「ふにゅ〜、でもでも、言うこと聞かないと殺されちゃうんですよぅ。」

「ふふ、わたしがいずれ来ると分かっている脅威に無策でいると思わないでくれ。対抗策はもうできている。」

「対抗策?」

「そう、それはお前たち5人だよ。」

「はぁ?」







6人は連れ立って有栖川家の地下室にいた。地下室といっても、有栖川が建造させた基地である。



「はあ…すごい、お屋敷の地下がこんな風になってたなんて…。」

「この基地も備えの内のひとつだが、最大の備えはお前たち5人。さっきも言ったろう。」

「ご主人様、それってどういう…。」



有栖川は、千歳との会話を取り出したカチューシャでさえぎった。

「これは?」

「メイドギアという。千歳、これを頭につけてみなさい。」

「え?…あ、はい…。」



千歳は、いつも頭につけているひらひらの白いカチューシャを取り去る。

そして、有栖川がメイドギアと呼んだカチューシャを乗せた。

ほかの4人は固唾を飲んで二人を見守っている。



「つけました。」

「よし。じゃあ、「メイドチェンジ!」と叫ぶんだ。」

「へ?」

メイドたちはみんな目を丸くした。



「さ、叫ぶんですか?」

「ああ、叫ぶんだ。」



「……メイド・チェンジ…。」

さすがの千歳ももじもじと小声になってしまう。

果たして、なにも起こらなかった。



「もっと大きな声で。これはお前たちの音声をキャッチして発動するシステムなんだ。だから、もっと大きな声で。」

「恥ずかしいですよ!なんでそんな仕様にしたんですか?」

「ビザールのやつらに悪用されないように、お前たち5人の声でしか発動しないように作ったんだ。」

「ううん、でも…。」

「そうか、恥ずかしいのは今だけだ、すぐ慣れるさ。」

「うう、わかりました…。」

半泣きになりながら、意を決した千歳は、叫んだ。



「メイド・チェーンジ!!」



その瞬間!!

まばゆい光がメイドギアから放たれ、千歳の体を包んでいく。

全身のメイド服がその構造を分解され、真っ赤に燃えるような炎に囲まれたように見える。

そして、再び結晶して、千歳は、「変身」した。



赤いメイド服。腰には黄色い大きなリボンが巻かれ、背中で大きく結ばれている。

両手は肘までをおおうグローブに覆われ、手甲のような硬い部分が拳にあたるようについている。

足は膝から下にレガースのようなアーマーがつき、メタリックな靴に続いていた。



「な、なんか変わっちゃたんですけど…。」

「よし!千歳、お前は今日からメイドレッドだ!!」

「メイド…レッド…?」

「そうだ!お前たちは、このメイドギアによって、「変身」できる。変身したお前たち5人がそろったら、無敵だ!!」

「わ、わたしたちも…ですか?」

涼子が不安そうに言う。

「そうだ。お前たちは5人そろってひとつの力。メイドファイブとなるのだ!」



「メイド…ファイブ…。」

「メイドファイブ」

「メイドファイブ!」



5人は口々にその名を口にする。口に出すごとに勇気が湧いてくるようだ。

そして、残る4人も「変身」したのだった。



「赤大路千歳、メイドレッド!」

「はい!」

「青山涼子、メイドブルー!」

「はい」

「イエロー・タイガーフィールド、メイドイエロー!」

「はいな」

「桃園愛、メイドピンク!」

「ふにゅ」

「緑川萌枝、メイドグリーン!」

「はいですわ」



「ご奉仕戦隊メイドファイブ、出動!!」

「了解!!」



いまここにご奉仕戦隊メイドファイブが誕生した!

戦え!メイドファイブ!地球をビザール帝国から守るんだ!

次回、「決めろ!必殺奉仕力ビーム!」にメイドチェーンジ!!